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対抗して作ってみた。

自転車を盗まれた

人間というのは、何かがなくなった、もう出会えないという事実を処理するのが下手なのではないだろうか。 とくに、それが愛着のある人や物ならなおさらである。 自動的に、もう出会えないという悲しい事実を認めるのを避けるべく、深層心理が悪魔の証明を求めて悪あがきする。 諦められずに、もしかするとあそこにあるのかもしれない、またちょっとしたら帰ってくるかもしれないと希望する。 ストレスに耐えるための正常化バイアスが発動してるのだといえよう。

ということを話すのも、愛用していた自転車がなくなったからだ。 状況証拠的に言えば、盗まれたというのが正しいのだろう。 朝、会社に乗ってきて、駐輪場に留め、夜、乗って帰ろうとしたらなかった。

観測した事実はそれだけである。 もしかすると、駐輪場の管理会社が移動させたかもしれず、風にのって飛んでいったのかもしれず、 いやむしろ駐輪場に留めたというのも記憶違いかもしれない。 なかった、という事実も信じられず、その後10回ぐらいは見に行った。

いずれにしても希望は砕かれた。管理会社は移動させることはないと言い、強風は吹いておらず、 朝かぶってきたヘルメットだけは手元に残った。

自分は、ある程度理性的であると自認している人間ではあるので、盗まれたという結論を認めるのに吝かではない。 実際、もう警察には盗難届を出したし、ネタとして同僚には話した。 購入金額で言えば 20万円ほどになる、そこそこの価値のある自転車なので盗まれるのも無理もない。 逆に、ちゃんとそこを見抜いた自転車泥棒にはなかなかやるなとも思っている。

ただ盗まれた事実を認めると、自分の落ち度というのも認めねばならないことになる。 実際、結構人の出入りの多い駐輪場に、さほど頑丈でもないダイアル式のチェインロックをしただけで放置しておいたのだ。 防犯上の観点からはいくらでも改善の余地がある。 もっと、頑丈な鍵にすべきだったとか、ダイアル式ではなく鍵式の錠にすべきだったとか、防犯ブザーなどのテクノロジーもつけておくべきだったとか、 そもそもそんな高価な自転車を通勤に使うべきではなかったとか。

しかし、錠を頑丈にしとけばよかったのか、というのは内心疑問もある。 開かない錠はない。ただ、開くまでどの程度時間がかかるかだけだ。 もしかして、犯人は毎日そこに高価な自転車が停まっていることを把握してたのかもしれない。 だとしたら、頑丈な錠をつけていても、それに対抗するような道具をもってこられるだけの話かもしれない。

もちろん、通勤に高価な自転車を使わない、というのは一つの解だ。 しかし、せっかく買った自転車を乗る機会を減らしてしまうのはもったいない。 駅に向かう人々を横目に、春風に吹かれて颯爽と駆け抜けた日々が間違いだったと思うのはむなしすぎる。

というわけでうだうだ後悔したりする日々を過ごしているわけである。 最後には諦めなければいけないのはわかっているが、吹っ切るきっかけにならないかなあ、とここに書いて見る次第である。 慰めは喜んで頂戴する。